日本各地に存在する「伝統工芸品」。古くから受け継がれてきたその技術は、日本のものづくりの原点ともいえる存在です。伝統工芸品には、陶芸や漆器、和紙など様々な種類があり、その数は日本全国で1,000を超えています。今回は、贈り物やお土産にもぴったりな東北地方に根付いている伝統工芸品を紹介します。
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日本の伝統工芸品一覧&8つの地方別で徹底解説!【完全保存版】
伝統工芸品とは
伝統工芸品とは、長年継承されてきた技術を用いて作られたもので、主に日用品として使用されてきました。そんな伝統工芸品のほかに、経済産業省が認定する「伝統的工芸品」というものもあります。
伝統工芸品と伝統的工芸品の違い
「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」、通称伝産法によって定められた伝統的工芸品。その法律に基づいた五つの要件を満たした伝統工芸品が、伝統的工芸品の認定を経済産業大臣から受けることになります。
・主として日常生活で使用する工芸品であること。
・製造工程のうち、製品の持ち味に大きな影響を与える部分は手作業であること。
・100年以上の歴史を有し、今日まで継続している伝統的な技術・技法により製造されるものであること。
・主たる原材料が原則として100年以上継続的に使用されていること。
・一定の地域で当該工芸品を製造する事業者がある程度の規模を保ち、地域産業として成立していること。
以上の要件を満たしている工芸品は2020年現在、全国に230品目あり、最も多い都道府県は東京都の18個となります。
青森県の伝統工芸品・津軽こぎん刺し
青森県の伝統工芸品 津軽こぎん刺しの小物(写真提供:青森県観光連盟)
青森県津軽地方に伝わる伝統工芸品「津軽こぎん刺し」。布地に幾何学模様などの柄を刺繍する「刺し子」という技法の一つで、同じ青森県の南部菱刺し、山形県の庄内刺し子と並んで日本三大刺し子の一つに数えられています。
約300年の歴史を持つ津軽こぎん刺しですが、古くは農業の仕事着に使用されていました。江戸時代、津軽の農民は厳しい倹約令により木綿の衣服を身につけることは禁止され、代わりに麻で作られた着物を着ていました。
しかし、麻の着物は目が荒く、保温性も低いので、津軽地方の寒い冬を乗り越えることはできません。そこで、麻に少しでも保温効果と耐久性を図るために、木綿の糸で刺し子を施すようになりました。それが津軽こぎん刺しの始まりだといわれています。
モドコ
そんな津軽こぎん刺しの特徴が、「モドコ」と呼ばれる幾何学模様です。40種類ほどのモドコがあり、それらを組み合わせることで津軽こぎん刺しの美しい模様を作り出します。
模様の組み合わせや配置は地域によって異なり、弘前市の「西こぎん」、黒石市の「東こぎん」、五所川原市の三縞こぎんの三つに分けられます。近年では雑貨や小物などにも用いられるようになり、可愛らしい模様から女性人気の高い伝統工芸品です。
岩手県の伝統工芸品・南部鉄器
岩手県の伝統工芸品 南部鉄器
岩手県の盛岡地方と奥州地方で造られている「南部鉄器」。経済産業省認定の伝統的工芸品でもあり、岩手県を代表する工芸品です。
南部鉄器の始まりは17世紀中頃。室町時代より製鉄が盛んに行われていた盛岡に京都の釜師を招き、茶の湯釜を造らせました。その後、茶釜だけでなく鉄瓶や武器、日用品などが造られるようになり、南部鉄器は全国的に知られる工芸品となりました。
一方で、現在の奥州市にあたる水沢地方は、古くから日用品鋳物の生産が盛んな地域でした。明治時代になると盛岡と奥州の技術交流が進み、昭和30年代には、両地域で造られた鋳物の総称が南部鉄器となりました。
様々なものの機械化が進む現在でも、昔ながらの伝統的技術を受け継いで、ほとんどの工程を手作業で行っている南部鉄器。主な工程として、鋳物砂と粘土汁を混ぜたものを型に流し込む鋳型作り、模様を施す紋様捺し、約1,500度に溶かされた鉄を鋳型に流し込む鋳込みなどがあります。
カラフルな南部鉄器もある
南部鉄器というと、漆黒で重厚感のあるのがこれまでの定番でしたが、現在では、カラフルなデザインの南部鉄器も登場しています。着色法の開発に約3年を要したというカラフルな鉄器。特に海外で人気を集めており、品薄のものも多いそうです。
宮城県の伝統工芸品・宮城伝統こけし
宮城県の伝統工芸品 宮城伝統こけし
宮城県の伝統的工芸品に認定されている「宮城伝統こけし」。江戸時代末期、東北地方の温泉地で子供のおもちゃとして作られたのが伝統こけしです。東北地方には11の伝統こけしの産地があり、それぞれの気候や習慣などの特色を持っています。
宮城県には、遠刈田(とおがった)こけし・鳴子こけし・作並こけし・弥治郎こけし・肘折こけしの五つの伝統こけしがあり、それぞれに特徴があります。
遠刈田こけし
切り長の目と鼻筋の通った表情
遠刈田温泉を中心に広まった遠刈田こけしは、発生年代が最も古いことから、伝統こけしの始まりだと考えられています。遠刈田こけしの特徴は、切れ長のに鼻筋の通った女性の表情。そして胴体に描かれた菊や梅、桜などの模様です。
鳴子こけし
写実的な表情
鳴子温泉を中心に発達した鳴子こけし。「ガタコ」という鳴子独特の接合方法が用いられ、頭を回すとキイキイという音を鳴らします。また、他の伝統こけしに比べて、表情や髪の毛などをより写実的に描いているのも特徴です。
作並こけし
作並こけしは、作並温泉で生まれ、のちに仙台や山形などの都市で発達しました。特徴は、小さな子供でも手で握って遊べるように細く作られた胴体と小さな頭で作られている点です。現在は、観賞用となったため、少し太めに作られています。
弥治郎こけし
ベレー帽をかぶっているような弥治郎こけし
鎌先温泉の近く、弥治郎地区で広まった弥治郎こけし。頭部にはロクロ線が描かれており、ベレー帽をかぶっているように見えるのが特徴です。また、こけしを作る際に、温泉客から好みの形状や模様を聞いていたことから、様々なデザインがあります。
肘折こけし
山形県の肘折温泉で生まれた肘折こけし。肘折温泉から宮城県仙台に移住した佐藤一族が継承していることから、宮城県の伝統こけしとなっています。遠刈田こけしと鳴子こけしの特徴を合わせたもので、胴体は鳴子こけしのように太めでありながら、菊や草花などの模様が描かれています。
秋田県の伝統工芸品・大館曲げわっぱ
秋田県の伝統工芸品 大館曲げわっぱの弁当箱
秋田県の大館地方に根付く「大館曲げわっぱ」。曲げわっぱとは、スギやヒノキなどの薄板を曲げて作る円筒形の箱のことで、主に弁当箱として使われています。
曲げわっぱ作りは日本各地で行われていますが、大館の曲げわっぱ作りが始まったのは江戸時代です。大館城主の佐竹西家が、藩内にある豊富な秋田杉に注目して、武士の副業として曲げわっぱ作りを推奨しました。力の入れ具合として、当時、農民は年貢としてお米を納めるのが一般的でしたが、大館ではお米の代わりに山からお城まで木々の運搬をさせていたほどです。
大館曲げわっぱ作りの工程は、まず天然の秋田杉を手割りして熱湯につけます。木が柔らかくなったところで、コロという道具に巻き込んで曲げて自然乾燥させます。
その後、重ね合う部分を接着し、底入れ、ヤスリなどで滑らかにする仕上げ、最後に、接着部分を桜の木の皮で綴じて完成です。
細くて揃っている年輪
天然の秋田杉で作られた大館曲げわっぱは、まっすぐな木目と、年輪の間隔が細かくて揃っているのが特徴です。そんな大館曲げわっぱの弁当箱は、スギの香りや、美しい木目、色合いなどによって、より食べ物を美味しくさせてくれます。
山形県の伝統工芸品・天童将棋駒
山形県の伝統工芸品 天童将棋駒
日本一の将棋駒生産地である山形県天童市。ここで作られた「天童将棋駒」は、経済産業省の伝統的工芸品の認定も受けています。
将棋の始まりは古代インドで、日本に伝わったのは奈良時代です。当時は貴族や武士が自ら駒を作り、将棋を指していたとされています。本格的な駒作りが始まったのは安土桃山時代。その後、江戸時代になると、将棋は庶民にも広まっていきました。
天童で将棋駒作りが始まったのは、江戸時代末期。当時、凶作によって藩の財政が厳しかったため、救済策として将棋駒作りを副業として奨励しました。
明治期になると、木地造りと書きの分業制を取り入れたことで、天童は将棋駒の大量生産地となります。さらに、大正期には機械化に成功し、日本を代表する将棋駒生産地となりました。
天童将棋駒には5種類あり、木地に漆で直接草書体(戦後は楷書体が主流)の文字を書く「書き駒」は、古くから受け継がれてきた将棋駒です。
街中にある将棋駒
天童市では、街全体で将棋文化の普及に取り組んでいて、将棋駒のモニュメントや、地面に描かれた将棋の碁盤などがいくつもあります。
福島県の伝統工芸品・会津塗
福島県の伝統工芸品 会津塗の金虫喰塗
福島県会津地方に根付き、約400年の歴史を誇る「会津塗」。会津地方を代表する工芸品として、長年支えてきました。
室町時代、この地にたくさんの漆の木が植えられ、そこに漆器職人などを近江(現在の滋賀県)より呼び寄せたことで、会津に漆工芸の技術が広まりました。
会津塗の特徴は、様々な技法を用いて装飾されている点。中でも、漆で描いた模様の上に、金粉の最も細かい消粉をつける「消粉蒔絵(けしふんまきえ)」は、会津塗を代表する技法です。
また漆の塗りも多彩で、もみ殻で模様を出す「金虫喰塗(きんむしくいぬり)」や油を加えて光沢を出す「花塗」などがあります。
会津漆器
原材料は作られる製品によって異なり、お椀などの「丸物」にはブナやケヤキなどが使われ、お盆などの「板物」にはホウの木を使用します。その木材を、まずは狂いを防ぐために数年間自然乾燥させ、次にロクロを使って木地作り。木地の下地には、年輪や継ぎ目が浮き出てくるのを防ぐための錆漆を塗ります。
その後は、下塗、中塗、上塗の順番で漆を塗り、最後に金粉などで蒔絵を行えば完成です。かつての会津塗の漆器は、お椀や重箱、お盆などの食器が中心でしたが、最近ではアクセサリー類や文房具など、様々な分野で会津塗が取り入れられるようになりました。
実際に伝統工芸品作りを体験してみよう
その土地ならではのものが手に入る伝統工芸品はお土産にぴったりです。また、伝統工芸品作りを実際に体験出来る施設も数多くあるので、ぜひ参加してみてください。