日本三古湯の一つとして知られる、道後温泉。そのシンボルとして松山の町に堂々と佇むのが「道後温泉本館」です。道後温泉本館は愛媛県松山市に位置し、日本を代表する近代和風建築として知られ、長年松山の温泉文化を支えてきました。
道後温泉本館の外観はもちろん、浴室や館内のいたるところでその歴史と伝統を感じられます。映画「千と千尋の神隠しの」油屋のモデルの一つにされたとも言われています。
地元の人々から愛し愛されて続けている道後温泉本館。そんな道後温泉本館の歴史や見どころ等を紹介します。
道後温泉本館の歴史
道後温泉は3,000年もの歴史を誇り、兵庫の有馬温泉・和歌山の白浜温泉と並び「日本三古湯」として知られています。その長い歴史の中で、道後温泉の起源とも言える神話が残されています。
白鷺(シロサギ)の伝説
その一つが1710年に完成した郷土地誌『予陽郡郷俚諺集(よようぐんごうりげんしゅう)』に記されている「白鷺の伝説」です。1羽の白鷺(シロサギ)が岩の間から噴き出る温泉に怪我をしていた脛を毎日当てていたところ、その怪我がみるみる回復し、遠くへ飛んで行ったといいます。
その姿を見た人々が白鷺に習って温泉に入ると、怪我や病気がたちまち治ったことから道後温泉は広く知れ渡ったとされています。この逸話から、道後温泉は白鷺によって見つけられたとも言われており、その記念に「鷺石」と称する石が作られました。現在は道後温泉駅前の放生園に設置されています。
白鷺をモチーフとしたデザインも
玉の石の逸話
玉の石
「玉の石の逸話」も有名です。日本神話の神様として知られる大国主命と少彦名命が伊予の国(現在の愛媛県)を訪れた際、大国主命が深刻な病におかされていた少彦名命を温泉で癒しました。
すると、少彦名命は石の上で踊り出すほど元気になったといいます。その石は「玉の石」と呼ばれており、道後温泉本館の北側に置かれています。今では、パワースポットとして人気となっています。
道後温泉本館の建築開始
その後も時を超えて愛され続けた道後温泉は日本で有数の温泉街として発展していきます。
そんな道後温泉の転機となったのが、初代道後湯之町町長に伊佐庭如矢が就任した1890年です。伊佐庭は老朽化が進んでいた道後温泉本館の改築を志します。100年先まで続く温泉施設を目指し計画を始動しますが、多くの住民が反対。それもそのはず。建築費が当時としては破格の135,000円だったと言われており、1900年頃の小学校教員の初任給が月8〜9円だったことを考えると、その高額さがよくわかります。
伊佐庭は命の危険にさらされるほどの反発を受けますが、それを乗り越え、1894年ついに近代和風建築の新・道後温泉本館を完成させます。
文豪ゆかりの地
松山といえば夏目漱石ゆかりの地としても知られています。英語教師として松山に赴任してきた漱石は道後温泉本館の建築の美しさにひどく感動し、著書『坊っちゃん』で絶賛します。それを記念して1966年には道後温泉本館三階に「坊っちゃんの間」が作られました。
現在
1994年に道後温泉本館は建築100周年を迎え、日本の公衆浴場として初めて国の重要文化財にも指定されました。しかし博物館化せずに現役の公衆浴場として営業を続けています。2020年現在、さらに魅力的な温泉施設を目指し部分的な修理工事が行われていますが営業もしており、1階の神の湯での入浴利用は可能です。
道後温泉本館の見どころ
道後の歴史を感じる、神の湯
道後温泉本館 神の湯の湯釜
「神の湯」は道後温泉の最も代表的な温泉と言っていいでしょう。神の湯は明治27年に改築した木造3階建てで、それからも幾度の改築を経て現在の姿になっています。男湯2室、女湯1室が用意されており、石造りの浴室内には道後温泉ならではの雰囲気が漂っています。見どころは「湯釜」と呼ばれる湯口。大きな円柱形をしており、絶えず浴槽にお湯を注いでいます。その重厚な外観からは、道後の歴史を感じられます。
坊ちゃんの間
道後温泉本館 坊ちゃんの間
日本を代表する文豪の一人、夏目漱石。松山は彼ゆかりの地として有名なのをご存知でしょうか。漱石は1895年に英語教師として松山市内の月子に赴任して来ます。漱石は道後温泉本館の美しさにひどく感動し、友人の正岡子規と共に頻繁に利用するようになります。
その際、2人で利用していたのが、この「坊っちゃんの間」なのです。本館3階の角部屋で、夏目漱石の娘婿である松岡譲によって名付けられました。来館者は誰でも無料で見学できます。
皇室専用の浴室、又新殿
道後温泉本館 又新殿
「又新殿」は1989年に完成した、日本で唯一の皇室専用の浴室です。桃山時代の建築様式が用いられており、最高級品を各所に使用したこの部屋からは、気品と職人の魂を感じることができます。
金の襖や市松模様の天井などには目を奪われます。見学料は大人260円、子ども130円。霊の湯の利用客はすでに入浴料に含まれているため、自由に見学できます。
時を刻む大太鼓
道後温泉本館 振鷺閣
本館最上部には「振鷺閣」と呼ばれる大太鼓があります。環境省選定の「残したい日本の音風景100選」の1つでもあります。6・12・18時の1日3回打ち鳴らされます。
大太鼓の音は耳に気持ち良く、日本ならではの雰囲気を感じられるはず。温泉街ならではの街並みと相まって、どこか懐かしい気持ちにさせてくれます。時刻が近くなったら耳をすましてみてください。
また、女湯には道後温泉発祥の起源ともなった大国主命と少彦名命の像が置かれているほか、両浴室の壁には磯部焼の陶板画が並べられています。
神の湯の利用には2つのコースが用意されています。「神の湯 2階席」と「神の湯 階下」です。それぞれ料金と使用できる施設が異なります。
道後温泉本館 神の湯 2階席
「神の湯 2階席」では55畳の大広間を休憩室として使うことができ、お茶やおせんべいを頂くことができます。ゆっくり温泉を楽しんだ後には広々とした畳の部屋でくつろぎ、余韻を楽しんでみてはいかがでしょうか。
「神の湯 階下」は休憩所などがなく、直接浴室へ向かうコースです。時間があまりない人などにおすすめです。毎日お風呂に入りにくるお客様も多いとのこと。地元の方々に愛されていることがわかります。
【料金】
神の湯 2階席:大人(12歳以上)840円 / 小人(2歳〜12歳)420円
神の湯 階下:大人(12歳以上)410円 / 小人(2歳〜12歳)160円
【営業時間】
神の湯 2階席:6:00〜22:00(札止め:21:00)
神の湯 階下: 6:00〜23:00(札止め:22:30)
※利用時間はともに1時間
高級感あふれる、霊の湯
道後温泉本館 霊の湯 男性浴室
神の湯と比べると小規模ですが、花崗岩や大理石があしらわれており、高級感のある浴室となっています。神の湯と同様、2つの入浴コースが用意されています。
「霊の湯 3階個室」のコースでは、小説『坊っちゃん』にもでてきた休憩室を利用することができます。この部屋はかつて「上等」と呼ばれていたこともあり、上品な時間の流れる和室となっています。このほかにも、貸タオルのサービスや、坊っちゃん団子、お茶なども頂けます。
道後温泉本館 霊の湯 3階個室 「上等」
「霊の湯 2階席」では白鷺をモチーフとしたランプが灯るお座敷で休憩することができるほか、お茶やおせんべいのサービスもあります。
また、上記2コースともに又新殿の見学、また神の湯の利用も可能です。
道後温泉本館 霊の湯 2階席
【霊の湯 2階席】
料金:大人(12歳以上)1,250円 / 小人(2歳〜12歳)620円
営業時間:6:00〜22:00(札止め:21:00)
※利用時間は60分まで
【霊の湯 3階個室】
料金:大人(12歳以上)1,550円 / 小人(2歳〜12歳)770円
営業時間:6:00〜22:00(札止め:20:40)
※利用時間は80分まで
日本を代表する温泉で、至福の一時を
夜の道後温泉本館
いかがでしたでしょうか。道後温泉本館からは、国内トップクラスの歴史を誇る温泉街を代表する気品を感じられます。また、それを中心に広がる街並みには、ゆったりとした時間が流れ、古き良き日本を体験できるでしょう。
また、道後温泉には、「道後温泉 空の散歩道」や「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉」、「道後温泉 椿の湯」といった外湯がたくさんあります。外湯で様々な温泉を巡るのもよさようです。外湯は宿泊施設ではないので気をつけてくださいね!
本館近くには足湯や「坊ちゃんカラクリ時計」などの観光スポットもあり、散策するのにピッタリです。ゆっくり温泉を楽しんだ後は、その余韻と街の風情を楽しんでみてはいかがでしょうか。
アクセス
最寄駅:道後温泉駅
松山駅からのアクセス
【松山駅前】- 伊予鉄道市内線5系統 / 道後温泉行
→【道後温泉駅】→ 徒歩(約4分)
松山空港からのアクセス
【松山空港バス乗り場】- 連絡バス・伊予鉄道・空港リムジンバス / 道後温泉行
→【道後温泉駅】→ 徒歩(約4分)
道後温泉本館の周辺情報
道後温泉には外湯という日帰り温泉のみの施設もいくつかあります。歴史が育んできた外湯文化と温泉情緒の両方を一度に味わう事ができます。是非温泉めぐりをしてみては。