幕末維新の英雄として、日本だけでなく海外の歴史ファンにも愛されるサムライ、坂本龍馬(1836-1867)。自由で新しい発想を持ち、人と人を結び付ける達人と言われ、日本の近代化に貢献した人物です。
今回は、坂本龍馬の生まれ故郷、高知市内の龍馬ゆかりのスポットを一日で巡るおすすめルートを紹介。主要な名所が多いため、龍馬について詳しくない、という人でも気軽に回ることができるルートになっています。生まれた地・上町から、太平洋を見つめる龍馬の銅像が立つ桂浜まで、高知市内で、龍馬の歴史やその人柄を探る旅にでかけませんか?
坂本龍馬とはどんな人物?
まずは、坂本龍馬の人物像を生い立ちとともに簡単に見ていきましょう。
少年時代は気弱な子どもだった
龍馬生誕の地には龍馬の写真が飾られている
1836年、龍馬は現在の高知市上町の郷士、坂本家に生まれました。坂本家は酒造業、呉服商を営む豪商才谷屋の分家で、龍馬は裕福な家柄の次男坊として育ちます。
龍馬の生まれた上町は、下級武士や職人が多く住む人間味のある町。快活としたイメージの強い龍馬ですが、実は子どもの頃は泣き虫だったとも言われています。3歳年上の姉・乙女(おとめ)に武芸や学問を教わり、14歳のころには近くの日根野道場に入門。剣術の稽古を始めると、どんどんその腕を上げていったのです。
才能を開花させていく青年期
19歳で江戸修行に出た龍馬は、剣術や蘭学を身に付け、人脈も広げていきます。
当時江戸で広がっていた「天皇を大事にして外敵(外国の侵略)を防ごう」という「尊王攘夷(そんのうじょうい)」の思想に触れ、いったん土佐に戻るものの、同郷の国を守ろうとする志高い志士たちとともに27歳で土佐勤王党に参加。翌年土佐を脱藩します。
この脱藩の際に使ったルートも、坂本龍馬を語る上で外せない高知県の観光スポットとして人気を集めています。高知市から高速道路を使って車で1時間半、梼原町(ゆすはらちょう)という町にあり、実際に脱藩ルートを歩くツアーも用意されていますよ。
海援隊が伊予国大洲藩から借用していた「いろは丸」(坂本龍馬記念館の展示より)
その後、「貿易を積極的に行い国を守っていく」という志を掲げていた開国論者の勝海舟に感銘を受けて弟子になったり、日本初の商社と言われる「亀山社中(のちの海援隊)」を創立したりと、常識にとらわれない行動力を発揮していきます。
重要人物をつないだ人柄と知識
32歳の頃、それまで仲が悪かった長州藩(現在の山口県)と薩摩藩(現在の鹿児島県)の仲を取り持ち、薩長同盟を成立させました。
両藩は天皇や政府への考え方が異なっていたこともあり、何かと対立してきましたが、諸外国に弱腰の政府の姿を受け、「このままでは日本が列強諸国に飲み込まれてしまう」と、新政府を立てるために協力しあうことに。これが薩長同盟で、龍馬が両者の仲を取り持った人物でした。
薩長同盟の成立は、龍馬の残した最大の功績として現代まで語り継がれていますね。
代表的な功績、薩長同盟(坂本龍馬記念館の展示より)
こうした実績は、龍馬が「男女問わず好かれた魅力ある人物だったから」「蘭学や西洋流の兵学といった新しい知識が共通言語となって人を結び付けたから」などといわれています。1867年、坂本龍馬は明治時代を迎える前に暗殺されてしまいますが、史実からにじみ出る人柄はいまなお人々を魅了し続けています。
初心者にもおすすめ!龍馬ゆかりの地めぐり【高知市編】
龍馬の一生を振り返ると、自由で柔軟な発想やコミュニケーション力を持った人柄であることがうかがえます。
それでは、そんな彼が生まれ育った上町から「坂本龍馬の時代と歴史を巡る旅」をスタートしてみましょう。今回辿っていくのは、龍馬が生まれた町を出発し、同時代に高知に生きた仲間たちと出会い、彼の思想のつまった資料を見て、そして龍馬が眺めた太平洋を追体験できるルートです。
高知市内で回りきることができるため、高知市内の観光とあわせて、ぜひ各スポットへ足を伸ばしてみてくださいね。
主要スポットが多く、路面電車やバスを使うのがおすすめ
【ルート詳細】
10:00龍馬生誕の地・上町「龍馬生誕地の碑」「高知市立龍馬のうまれたまち記念館」
↓(電車 or バス 約10分)
11:30 「高知駅」龍馬像、「こうち旅広場」パビリオンで再現された生家と三志士像に会う
↓(バス 約30分、徒歩 約5分)
13:30 「坂本龍馬記念館」
↓(徒歩 約15分)
16:00 桂浜・龍馬像
10:00 龍馬生誕の地からスタート
上町病院の隣に立つ「龍馬生誕地の碑」
高知市内の帯屋町周辺のホテルに泊まるなら、散歩がてら「龍馬生誕地の碑」へ行ってみてください。碑は国道33号線の上町2丁目にある上町病院の隣に立っています。歴史の道総合案内の看板は誕生地の碑の目の前にあります。
そこから徒歩約5分のところに「高知市立 龍馬のうまれたまち記念館」が。龍馬の生まれたころの町並みを半立体模型で再現したり、幼少期の龍馬のエピソードのわかるバーチャル4面シアターがあったりと、龍馬の人間形成の基盤となる家族や町を紹介しています。
龍馬がどのような幼少〜青年時代をこの地で過ごしたかが分かる
龍馬生誕地の上町だからこその記念館は、高知市に訪れたら外せない観光スポット。龍馬の身分差を超えた人脈術は、ここ上町の土壌と家族の支えによって育まれたのかもしれません。英語でのコースはありませんが、ボランティアガイドによる観光案内もあります。
■「龍馬生誕地の碑」「高知市立龍馬のうまれたまち記念館」アクセス方法
龍馬生誕地の碑:市内ホテルから徒歩や路面電車 →【上町一丁目】電停 / バス停 →徒歩(約1分)
高知市立龍馬のうまれたまち記念館:石碑から 徒歩(約3分)
11:30 高知駅で三志士像を望む
龍馬の生い立ちを生誕の地で学んだら、次は高知駅へと向かいます。路面電車を使って高知駅へ移動すると、大きな像がお出迎え。高知駅前の広場に立つ「土佐三志士像」です。土佐三志士とは土佐藩の幕末の英雄のことで、左から武市半平太(たけち はんぺいた)、坂本龍馬、中岡慎太郎の像が並んでいます。
高知駅前にそびえたつ三志士の像
武市半平太は龍馬と同じ道場で剣術を学んだ幼なじみで、「土佐勤王党」という攘夷組織を結成。龍馬も初期は所属していましたが、開国に向かって思想を変えた龍馬と異なり、半平太は党首として京都で尊王攘夷活動を行っていきます。勤王派が衰退していくなかで土佐勤王党への弾圧が始まり、投獄され切腹を命じられました。
中岡慎太郎は、1867年の近江屋事件で龍馬とともに襲われた人物です。半平太の道場に入門し、土佐勤皇党に加盟して志士活動を展開しましたが、党への弾圧が始めると脱藩。龍馬らと共に薩長同盟の斡旋に尽力しました。近江屋で龍馬はほぼ即死でしたが、慎太郎は2日間生き延びて、暗殺犯の襲撃の様子について語ったといわれています。
同じ時代に土佐で生まれ、それぞれの志を持って生きた3人。彼らの功績をたたえて造られた土佐三志士像は、現在では観光客の撮影スポットとして人気です。大きく迫力のあるこの像、実は、素材は発泡スチロール。高知県は台風が多く通過する土地であるため、強風に備えて移動できるようにしてあるのです。
■「高知駅」へのアクセス方法
「高知市立龍馬のうまれたまち記念館」から徒歩(約2分)→【上町一丁目】 バス停 → 【高知駅前】バス停 下車(約10分)
12:00 駅併設のパビリオンで龍馬になりきり
自室から台所まで、龍馬の生家を再現
せっかく高知駅に訪れたなら、駅前に広がる高知旅の玄関口「こうち旅広場」内のパビリオンへ足を伸ばしてみましょう。
ここでは、2010年に放送されたNHK大河ドラマ『龍馬伝』の撮影で使用した龍馬の生家が再現されています。幕末志士社の中で、実際に和服を着て、龍馬のなりきり写真を撮ることができるんです。
「龍馬」と「お龍」の衣装で記念撮影してみては
パビリオン内には休憩スペースもあり、土産物屋や観光案内所も隣接しています。近くのお店で土佐料理のランチをとるのもいいですね。
土佐料理といえばカツオ。定番の「カツオのたたき」ですが、最近では塩をつけて食べる「塩たたき」が人気。カツオのおなかの部分を「はらんぼ」はいわゆるトロの部分で、県外にはあまり出回らない逸品です。たたきをニンニクやしょうがとともに巻きずしにした「土佐巻き」もおすすめです。
13:30 坂本龍馬記念館
ここからは高知駅から出ているバスに揺られ、桂浜まで移動しましょう。
桂浜に着いたら、2018年度にリニューアルオープンした「坂本龍馬記念館」へ。太平洋を突き出すように建てられた独特な外観が特徴的です。入り口には右手を差し出した龍馬の等身大銅像があり、龍馬と握手ができます。この姿は、当時敵対関係にあった後藤象二郎と大政奉還を前に握手したという話から着想を得たのだそう。
スタイリッシュな建物が印象的。写真右に小さく写るのが龍馬の像
新館の常設展示では、龍馬が設立に関わった海援隊約規や、龍馬が高杉晋作から貰ったものと同型のピストル、暗殺された近江屋にかかっていた屏風と掛け軸の複製などを展示。屏風には53滴の血痕がついていて、暗殺現場の様子をいまに伝えています。
龍馬が兄や姉・坂本乙女に宛てた手紙も多数展示されていますが、そこからは龍馬のユーモアや独特な思想をうかがい知ることができます。有名な龍馬の名言「日本を今一度せんたくいたし申候…」も、姉・乙女にあてた手紙に書かれています(複製を展示)。
舵を切ると映像が変わるなど、工夫された展示の数々
本館の「幕末広場」では、龍馬の一生や幕末志士たちとの出会いを辿る展示が。船をかたどった作品や、暗殺現場となった近江屋の復元などもあり、体感しながら龍馬を知ることができます。
企画展も含めて展示内容が充実していますが、もうひとつの見どころは屋上や2階奥のフロアから一望できる太平洋。一日歩いてちょっと疲れてきたころ、海を眺めながら少しゆっくりしてもいいですね。
■「坂本龍馬記念館」へのアクセス方法
【高知駅前】バス停 → とさでん交通バス / 桂浜行き【桂浜】バス停 下車(約30分)、徒歩(約5分)
15:30 桂浜の龍馬像で、龍馬の見た「世界」を眺める
最後は龍馬像に会いに桂浜へ
桂浜の坂本龍馬像
記念館を満喫したら、ガイドブックなどで有名な桂浜の龍馬像を観に行きましょう。坂本龍馬記念館からは徒歩で15分ほどです。太平洋に向かって立つ龍馬像は、世界をみつめていた龍馬のまなざしになぞらえているといわれています。
浜に降りると、砂浜が続く先に、鳥居が見えます。こちらは下竜頭岬の竜王宮ですが、ここから眺める太平洋も絶景です。時間に余裕のある方は桂浜水族館や、「月の名所の桂浜」とうたわれる桂浜で名月鑑賞するのもいいですね。
ゆっくり過ごしたいならここから月を眺めるのもおすすめ
桂浜には土産屋「龍馬の浜茶屋」も立っており、龍馬グッズを購入できます。Tシャツやキーホルダーにマグカップなど、龍馬の描かれた商品が豊富にそろっています。そのほか、カツオの商品やお菓子類などもあるので、ゆっくり見てみてください。満足いくまで過ごしたら、バスで市街地に戻りましょう。
2017年に桂浜にオープンした「龍馬の浜茶屋」
高知県には龍馬にまつわるイベントがたくさん!
高知県が生み出した日本の偉人、坂本龍馬。高知"龍馬"空港では、1Fロビーで龍馬像がお出迎え。そのほかにもポスターや看板など、いたるところに登場するので、龍馬を探しながら高知観光を楽しんでみてください。
また、高知市内には、彼にまつわるイベントが1年を通してさまざま開催されています。高知県へ旅行する際には、これらのイベント情報を事前にチェックしてみてはいかがでしょうか。
2003年から使用されている「高知龍馬空港」の愛称。人名を冠した空港は全国初
2月に開催「龍馬マラソン」
その名を冠する「龍馬マラソン」は、龍馬が大きな志を持って眺めた太平洋を望むコースを舞台に行う42.195kmのフルマラソン。高知の自然と食を沿道のあたたかい応援を満喫しながら走る市民マラソンで、年々人気が高まってきています。毎年9月ごろにエントリーが開始され、翌年の2月に開催されます。
11月には各地で「龍馬まつり」
坂本龍馬の誕生日であり命日でもある11月15日に近い日曜には、桂浜公園を会場とした「龍馬まつり in 桂浜」が開催されます。龍馬をテーマにした展示やワークショップのほか、よさこい踊り演舞やスタンプラリーなどもあり、家族で楽しめる内容が大きな魅力。
桂浜の龍馬像横にやぐらを組んで、龍馬と同じ目線で太平洋を眺めることができる催し物「龍馬に大接近」も、龍馬まつりの目玉のひとつ。こちらは例年、イベント当日だけでなく9月から11月にかけて行われています。
土佐名所地図(とさてらすの展示より)
そのほかにも11月は龍馬月間として、各地でイベントが開催されています。坂本龍馬誕生地や桂浜、和霊神社など龍馬ゆかりの地を巡るウオーキングイベント「龍馬ゆかりの道 ツーデーウオーク in 高知」や、龍馬誕生地碑前や高知市中央公園などで行われる龍馬生誕祭など、いつも以上に県内は龍馬で盛り上がります。
高知市内で坂本龍馬の姿を探しに行こう
駆け足で巡る龍馬ゆかりの地、いかがでしょうか。旅の途中では、龍馬のような自由で豪快な男性や、勝ち気で頼りがいのある女性など、高知の県民性にも触れながらの旅を楽しめることでしょう。
そして龍馬の目に映った町、海、空を感じながら、彼の見た日本と世界の姿に思いを馳せてみてください。