日本全国に点在している「伝統工芸品」。その数は1,000を超えています。「伝統的工芸品」という国の認定を受けた、歴史的に貴重なものばかり。日本のものづくりの原点ともいえます。
今回は贈り物やお土産にもぴったりな、四国地方に根付く伝統工芸品、讃岐提灯(さぬきちょうちん)・阿波和紙(あわわし)・砥部焼(とべやき)・土佐和紙(とさわし)の4つをご紹介します。
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日本の伝統工芸品一覧&8つの地方別で徹底解説!【完全保存版】
伝統工芸とは
伝統工芸の5つの要件
伝統工芸とは、その地域に受け継がれる技術を用いて作られた作品のこと。伝統工芸品として認定されるための要件は5つあります。
・日常生活の中で使われるものであること
・手づくりであること
・伝統的な技術・技法で生産されるものであること
・伝統的に使用されてきた原材料であること
・産地を形成していること
伝統工芸品が多いのは、京都や江戸に近い関東地方や近畿地方。都から海を隔て、遠く離れていた四国は、伝統工芸のイメージはやや薄いかもしれません。しかし、実は四国にも魅力的な伝統工芸品がたくさんあるのです。
伝統工芸品が発展した背景
伝統工芸品が大きく発展したのは江戸時代。当時、幕府が財政難に見舞われていたため、それぞれの藩は、幕府に頼らずに自分たちで財政をやりくりする必要がありました。そのため、収入源としてその地域の特産物を活かした、工芸品の生産に力を入れることに。そして、その地域ならではの技術や製法が確立していったのです。
香川県の伝統工芸品 讃岐提灯
香川県の伝統工芸品 讃岐提灯(写真提供:一般財団法人かがわ県産品振興機構)
まずは、香川県の伝統工芸品のひとつ、「讃岐提灯」をご紹介します。提灯とは、中にろうそくを立てて、明りを灯すもの。同じ提灯にも、卵形のもの、円筒形のものなど、さまざまな種類があります。その温かい光に癒やされる人も多いのではないでしょうか。
足元を照らしたり、お店の目印として飾ったり、お祭りなど、日本にいれば目にすることも多い提灯。そのひとつが香川県の讃岐提灯なのです。現在は、香川大学経済学部の学生たちが、「TERASU」というプロジェクトを立ち上げ、イベントや提灯づくりのワークショップを開催しています。
1200年の歴史をもつ日本最古の提灯
讃岐提灯は、今から約1,200年前、真言宗の開祖である弘法大師(こうぼうだいし)が四国八十八ヶ所に奉納する提灯として、中国から伝承したのが始まり。そのことから、讃岐提灯には寺社の紋様や柄のデザインが施されたものが数多くあり、現在も神社やお寺に飾られているのです。
秘伝の技法で変幻自在な讃岐提灯
讃岐提灯には、「讃岐一本掛(さぬきいっぽんがけ)」という特有の技法があります。これは一本の竹を切らずに使い三重構造にするという技法で、ごく最近まで秘伝とされていたもの。竹を切らずにつくるため、縁起がよいとされています。
讃岐一本掛の技法を用いた讃岐提灯は、竹を曲げることにより、変幻自在に形を作れます。中には讃岐うどんやサンタクロースなど、一風変わったデザインの提灯も。「明かりの彫刻」として、インテリアの分野においても新しい世界を切り開いています。
徳島県の伝統工芸品 阿波和紙
徳島県の伝統工芸品 阿波和紙(写真提供:徳島県観光協会)
徳島県の阿波和紙は、吉野川市、那賀郡那賀町(なかぐんなかちょう)、三好市池田町を中心に作られています。吉野川市内にある「阿波和紙伝統産業会館」では、阿波和紙の歴史を学べるだけでなく、はがきや半紙などの紙すき体験もできます。体験は1枚から可能。気軽に試せます。
様々な種類の阿波和紙(写真提供:徳島県観光協会)
全国で使われてきた阿波和紙の歴史
阿波和紙の起源は今から約1300年前の奈良時代。朝廷に仕えていた忌部族(いんべぞく)が、麻や楮(こうぞ)を用いて紙や布を製造していたという記録が残されています。
江戸時代になると、徳島藩の政策として紙作りが奨励されるようになりました。
奉書紙(ほうしょがみ)(もともと公文書用として用いられていた、白くしっかりとした生地の和紙)や藩札(はんさつ)(藩の領内でのみ使える紙幣)などを生産し、阿波和紙の名は全国に知れ渡りました。阿波和紙づくりは、農家の大切な副業でした。
その後、機械製紙の登場により衰退し、一時期250戸あった和紙の製造戸数は今日、1社にまで減少。しかし、1970年に徳島県の無形文化財指定、1976年には伝統的工芸品に指定されるなど、阿波和紙作りは今もなお受け継がれています。
藍染を中心に優しい色合いが特徴
通常、和紙の原料には楮や三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)といった木々の繊維を用いますが、阿波和紙ではその3つ以外に、麻や竹、桑なども用います。
そんな阿波和紙の特徴は、手すき和紙ならではの優しい肌触りと色合いです。また、徳島県の伝統産業である藍染を取り入れた和紙や、現代の技術を使った耐水性のある和紙など、さまざまな種類の和紙が製造されています。
愛媛県の伝統工芸品 砥部焼
砥部焼の食器
愛媛県伊予郡砥部町で古くから受け継がれている「砥部焼」。1976年に国の伝統的工芸品の認定を受けている陶磁器です。砥部町にある「砥部焼陶芸館」では、外国人観光客向けに「絵付け」「手びねり」などの体験メニューを用意。体験はいずれも要予約です。
処分に困ったくずが磁器に
砥部では、奈良時代から「伊予砥(いよと)」という砥石の生産が盛んに行われてきました。一方で、砥石の切り出しによって生まれる砥石くずの処分に苦労してきたという背景があります。江戸時代になると、その砥石を切り出す際に出るくずが磁器の原料になることが判明。
そして、砥部がある大洲藩の藩主・加藤泰候(かとうやすとき)が1775年に磁器の製造を命じ、翌年陶工の杉野丈助が磁器の焼成を成功させます。これが砥部焼の始まりです。
その後、明治時代には大量生産が行われるなど、砥部焼はさらに発展。生産量の7割が、世界に輸出された時期もありました。
暮らしに溶け込む砥部焼
そんな砥部焼の特徴は、やや厚手であること。そのため、熱いものでも持ちやすく、かつ冷めにくいと重宝されてきました。また、白磁に施された「呉須(ごす)」と呼ばれる薄藍色の顔料を用いた文様も特徴のひとつです。このシンプルな文様と丈夫さから、砥部焼は生活雑貨として親しまれています。また、現在では電子レンジや食器洗浄機にも耐えられる砥部焼の製品も生産されているのです。
砥部焼
高知県の伝統工芸品 土佐和紙
高知県の伝統工芸品 土佐和紙
高知県いの町や土佐市で生産されている「土佐和紙」。代表的なものに、江戸幕府に献上したとされる「土佐七色紙」があります。いの町には「紙の博物館」があり、当時の人々を魅了したその美しさに触れることが可能。また、和紙だけでなく、和紙を使った衣服などの展示もあり、当時の人々の生活を知ることができます。
全国一の生産量を誇る土佐和紙
今から約1,000年前の平安時代の書物「延喜式(えんぎしき)」に、献上品として土佐和紙の名が残されています。このことから、少なくともその時代には土佐和紙が作られていたと考えられています。そして土佐和紙の恩人と呼ばれる吉井源太(よしいげんた)が、土佐和紙の大量生産を可能とする「簀桁(すげた)」の開発に成功。明治時代には全国一の紙の生産規模を誇る産地にまで成長しました。
匠の技が光る0.03mm土佐和紙
土佐和紙が発展した背景には、土佐和紙が生産されている土佐市といの町の、ふたつの自然条件が関係しています。
まず両地域に、四国三大河川のひとつに数えられる清流・仁淀川(によどがわ)が流れている点。そして、両地域で採れる和紙の原料・楮が、他県のものと比べると繊維が太くて長いという特徴があります。また、高知県の林野率は日本一。材料となる木に恵まれているのです。四国一の水質を誇る仁淀川の水と、豊富な現地の楮によって、丈夫な土佐和紙が生産されています。
また、土佐和紙は世界でも類を見ない0.03mmという薄さと種類の多さも大きな特徴です。
伝統工芸品を知って、より充実した四国旅行に!
香川で讃岐うどんを食べ、愛媛で道後温泉に入る。徳島で鳴門のうず潮を見て、高知でカツオを食べる…伝統工芸を知らなくても、四国を楽しむことは可能。しかし、伝統工芸品を知ることで、より深く四国を満喫できるのです。歴史を知らなければ、ただの紙、器、提灯にしか見えないかもしれませんが、伝統工芸品にはその時代を生きたひとたちの知恵と技術が詰まっています。今回ご紹介したもの以外にも、四国にはさまざまな伝統工芸品がありますよ。
ぜひ大切な人へのお土産に、そしてご自身へのお土産として、伝統工芸品を手にとってみてください。