「讃岐かがり手まり」とは?
讃岐かがり手まり4つのこだわり
手まりってどんなもの?
讃岐かがり手まりが作られるまで
自然の美しさを表現した手まりたち
まとめ

ピンクや黄色の花模様に、青や白の幾何学模様。色とりどりの糸で様々な模様を表現する香川県の郷土玩具「讃岐かがり手まり」は、手づくりならではのほっこりとしたかわいらしさが大きな魅力です。

今回は、県内の手まり工房「讃岐かがり手まり保存会」で、手まりができるまでの工程やこだわりを伺い、その魅力に迫ってきました。初心者や旅行者のための体験コースも開催しているため、自身の手で伝統文化に触れてみてはいかがでしょうか?

「讃岐かがり手まり」とは?

讃岐かがり手まりたち

さまざまなデザインの「讃岐かがり手まり」たち

香川県はかつて讃岐国(さぬきのくに)と呼ばれ、江戸時代には「讃岐三白(さぬきさんぱく)」と呼ばれる特産品で名を馳せました。三白とは木綿、塩、砂糖の3つで、その色合いから名付けられています。そんな讃岐三白のひとつである木綿の糸を、草木で染めて作られた手まりが「讃岐かがり手まり」です。

かつては盛んに作られていた木綿の手まりでしたが、時代と共に作り手の数も減り、衰退の一途を辿ることに。そんな中、手まり制作の技法を後世に残すために立ち上がったのが、当時県の職員であった荒木計雄(かずお)さんと、その妻・八重子さんでした。二人は、昭和58年に「讃岐かがり手まり保存会」を発足。その4年後に、讃岐かがり手まりは香川県の伝統的工芸品の指定を受けることとなります。

讃岐かがり手まり保存会外観

旧幼稚園を改装した讃岐かがり手まり保存会

讃岐かがり手まり保存会は、香川県高松市、ことでん「瓦町駅」より徒歩約6分の場所にあります。今回は、現在の保存会代表である伝統工芸士、荒木永子さんにお話を伺ってきました。

「伝統的工芸品というと、難しいことをしているイメージが強いので、特に若い人は興味を持ってもらいづらいんです。まずそういうイメージをなくして、若い人にこそ讃岐かがり手まりを知っていただき、もっと身近なものだと感じてもらえればうれしいです」と、荒木さん。

荒木さんは、より多くの人に讃岐かがり手まりを知ってもらうために、県内だけでなく県外でも展示会や手まりづくりの講習を行っています。さらに同会では、手まりの制作・販売のほか、定期講座や、プロの作り手養成コースから旅行者向けの体験コースまで開催するなど、幅広い活動を行っています。体験コースは予約制なので、ホームページで確認してから訪問するのがベター。

讃岐かがり手まり4つのこだわり

まずは荒木さんに、讃岐かがり手まり保存会が伝統を受け継ぐために大切にしている、4つのことを教えていただきました。

①木綿糸を使う
木綿糸

手触りも良くやわらかな木綿糸

江戸時代に栽培技術が広まった木綿糸。現在も当時と同じように木綿糸を使用して手まりを作っています。

②草木で染める
木綿を乾かす様子

糸はすべて草木染め

木綿糸は化学染料の無かった昔と同じ手法で、植物で染色。糸に負担をかけないために全て自然のものを使用し、染液も最後まで無駄なく使い切ります。

③籾殻の芯
天日干しをした籾殻

天日干しをした籾殻(もみがら)

江戸時代に作られていた手まりの芯となる材料は、古着や布団綿など、地域によって様々でした。同会では、昔ながらの材料である籾殻(もみがら)を使用しています。

④手でかがる
糸をかがる荒木さん

手まりを製作中の荒木さん

手まりをかがるのは、もちろんすべて手作業。幾何学的な直線の模様をまりの曲面にかがることで、手まりならではのやわらかな風合いが生まれるのです。

手まりってどんなもの?

手まりとは、千年以上の歴史を持つ日本の伝統文化のひとつです。日本全国、それぞれの地方独特の作り方やデザインが、女性たちの手によって受け継がれてきました。

手まりの歴史

平安時代に公卿階級の間で、神事としても行われていた足でまりを蹴る「蹴鞠(けまり)」が手まりの前身といわれています。江戸時代に入り、少女の遊び道具として手まりが作られ、贈り物や飾り物としても重宝されるようになりました。

しかし明治時代に外国製のゴムまりが普及し、綿で作られた手まりは衰退。現在は日本の歴史を受け継ぐ工芸品として、一部の地域で生産されています。

手まりの遊び方

古くは手まりを高く投げ上げ、それを地面に落とさないように受け止める、お手玉と同じ遊び方でした。手まりは、とりわけ正月の遊びとして好まれていたのです。

讃岐かがり手まりが作られるまで

讃岐かがり手まりは始めから終わりまで、全て手作業。そのこだわりの工程をご紹介します。

木綿糸を草木で染色する

まずは手まりをかがる、色彩豊かな「かがり糸」の染色から。

染料に使われる草木はさまざまで、青色は藍、黄色はカヤの一種である刈安(かりやす)、そのほか、栗のイガやタマネギの皮まで!旬の草木があればそれを使いますが、手に入りにくいインド茜や蘇芳(すおう)、紅花、阿仙などは漢方のお店で買うこともあるそうです。

まず、手まりに使われる木綿の糸は色素が染まりづらいため、染色前に「呉汁(ごじる)」と呼ばれる大豆の絞り汁に着けて下処理をします。

その後、植物から絞った液をお湯に混ぜた染液と、発色を促す媒染液に、交互に漬け込みながら染色。色の染まり具合等によって変わりますが、約20分ずつの漬け込みを3回程度繰り返します。

糸を染めていく様子

染液が熱い場合は棒を使って染色

染液の温度が低い間は、手ですくって染めることもありますが、最高温度は70℃まで上げるため、温度が高くなると輪になった木綿糸を2本の棒でたぐりながら染め上げます。筆者も挑戦させていただきましたが、染液を含んだ糸はずっしりと重く、大変な作業だと実感しました。

つける様子

1つの材料から多様な色が生まれる

この赤い染料はすべて茜ですが、染料の濃度を変えることで色味を変えています。染め始めはそれほど違いがありませんでしたが、時間と共に濃い赤から淡いピンクまで、ゆっくりと色が変わっていきます。

「通常は乾燥させた植物で染めるのですが、夏には乾燥前の生の葉で染める”生葉(なまば)染め”をやるんですよ。生葉をもむとモロヘイヤみたいなドロドロした染液ができるのですが、これがまた色が出にくくて大変。でも生葉染めをやったら、あー、夏だなーって思うんです」と、笑顔で話してくれた荒木さん。

同じ素材を使っても、雨が少ない年は色が違っていたり、その年その時によって仕上がる色が変わるそうです。

かがり糸

かがり糸は100種類以上の色がある

保存会には、植物で染められた色とりどりのかがり糸が並べられていました。ピンクひとつとっても、非常にたくさんの数があることに驚きます。

手まりの土台となる籾殻の下処理

籾殻を干す

天日干し中の籾殻

手まりの土台に使用している籾殻。籾殻は一度煮沸し天日干しし、中に残っている小さな虫を処理してから使用します。

「ほとんど昔と変わらない手法なので、ここにいると江戸時代にタイムスリップしたような気持ちになるんですよ」と話してくれたのは、保存会のみなさんから「染色男子」と呼ばれ親しまれている染色職人さん。力も知識も必要とする大変なお仕事ながらも、楽しさが伝わってきました。

土台

完成した土台

こうしてひと手間かけた籾殻を薄手の紙で包み、糸で薄紙が見えなくなるまで巻くことで、ようやく手まりの土台が完成。たとえ目に見えない部分であっても、伝統を受け継ごうという職人魂が感じられます。

模様を作る案内線「地割り線(じわりせん)」をかがる

土台が完成したら、模様を作る案内線として地割り線をかがります。まりを地球に例えて、北極、南極、まりをぐるりと一周する線を赤道と呼びます。

地割り線の土台一色でかがっているのが地割り線

模様によって地割り線の分割数も変わり、緻密な図案になるほど複雑に。地割り線が多い場合は、ずれないように少しずつかがっていきます。手まり作りでは、土台から地割りまでの作業が非常に重要で、これが上手くできていないと、美しい手まりが完成しません。

模様をかがる

まち針を刺す

ずれないようにマチ針を刺す

地割り線を施した土台まりの模様のポイントとなる部分に、マチ針を打っていきます。マチ針がまりに刺さる時には、サクッサクッという小気味良い音が。

初心者用の体験コースはこの作業からで、模様をかがる楽しさを体験できます。

きれいにかがるポイントは、糸がねじれないようにすることと、糸同士が重ならないようにすること。美しい模様を出すには糸を強く引っ張りすぎないように、優しくかがることが大切です。

手まりをかがっていく

慣れた手さばきでかがられる手まり

完成した手まり

のうぜんかずら

「五角六角のうぜんかずら」

手まりは、1個ずつ完成させずに、数個を同時進行で作っていくこともあります。模様によっては、完成まで1カ月を要するものもあるそう。多大な時間と手間をかけて、ようやくひとつの手まりが生まれます。

工房の様子 /

讃岐かがり手まり保存会の工房

この日の工房では、プロの作り手を目指す方々が集まり、手まりを制作していました。取材中には「これはどの糸を使ってるん?」などと質問が飛び交う場面も。

「ここでは私自身も皆さんから教えられることが多いんです。互いに切磋琢磨して、良い物を生み出す工房にしたいと思っています」と、荒木さん。工房では、真剣さの中にも和やかさを感じる、アットホームな空間が広がっていました。

自然の美しさを表現した手まりたち

讃岐かがり手まりには、キクやサクラ、星にチョウなど、自然界からインスピレーションを得てデザインされたものがたくさんあります。ですが、荒木さんが手まりづくりを受け継いだ当時は、今ほどの種類はなく、同じ模様ばかり作っていたそう。現在ある讃岐かがり手まりは、荒木さんが元々受け継いだ伝統柄をアレンジし、新しい命を吹き込んだもの。

その美しい手まりの一部を紹介します。

変わり菊と鹿の子

左 /「四角つなぎと変わり菊」、右 /「鹿の子(かのこ)」

左の手まりは土台となっている地色が残っているデザインですが、右の手まりは土台の色を隠すようにすべてかがり糸で覆われています。実は元々あった讃岐国の手まりは、左の地色を残すタイプ。模様が増えるにつれ、地色を全て隠すデザインが増えてきたのです。

白菊 「白菊」 網代

「網代(あじろ)」

交差花

「交差花」

凌霄花

「凌霄花(のうぜんかずら)」

十二菊

「十二菊」

やまびこ

「やまびこ」

木綿や草木等、自然から得たもので自然にあるものを表現する、讃岐かがり手まりの美しさは自然界に対する感謝の心でもあるのでしょう。

手まりはプレゼントやお土産にもぴったり

讃岐かがり手まり保存会では、小ぶりの手まりや手軽に購入できるストラップも販売しています

讃岐手まり箱

「讃岐の手まり箱」(3,800円〜 / 税別)

こちらの模様は「16菊かがり」。小箱に入った色鮮やかな手まりはまるで和菓子のよう。お祝いごとのプレゼントにもぴったりです。

手まり小箱

「香手まり(KOUTEMARI)手まり小箱」(1箱 12,000円 / 税別)

桐箱を開けるとふわりと広がる自然の香り。繊細なかがりのある小さな手まりの芯には、京都の老舗・山田松香木店で特別調合した極上の香木が使用されています。飾るだけでなく、バッグに忍ばせて香りを楽しむのもいいでしょう。

手まりストラップ

「結い手まり(YOUITEMARI)ストラップ」(2,000円 / 税別)

ころんとかわいい手まりのストラップは、お土産にもおすすめ。芯に香木を使用した「にほひ手まりストラップ」もあります。

世界でひとつの手まりを作ろう

知れば知るほど奥が深い讃岐かがり手まり。手まりを見に工房を訪ねるのもいいですが、時間が許すのであればぜひ体験コースに参加してみては?自身でひと針ずつ丁寧に作った手まりは、愛らしい旅の思い出になるでしょう。