古くから受け継がれてきた技術を用いた「伝統工芸品」。日用品や着物など様々な種類が作られ、全国各地に存在しています。1,000を超える伝統工芸品のうち、230品目は「伝統的工芸品」と呼ばれ、日本人の生活を支えてきました。
今回は、近畿地方に根付く贈り物やお土産にもぴったりな伝統工芸品、鈴鹿墨・信楽焼・京友禅・和泉櫛・播州そろばん・高山茶筌・紀州漆器を紹介します。
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日本の伝統工芸品一覧&8つの地方別で徹底解説!【完全保存版】
伝統工芸品とは
伝統工芸品とは、古くから受け継がれてきた技術を用いて作られたもののことで、その技術は日本のものづくりの原点ともいえます。
一方、国の認定を受けた「伝統的工芸品」とは、100年以上の歴史を持つことや多くの工程を手作業で行うなど、国の指定する五つの要件を満たした工芸品のことを指します。
三重県の伝統工芸品 鈴鹿墨
三重県鈴鹿市の白子地区で生産されている「鈴鹿墨(すずかすみ)」。日本で生産されている墨の中で唯一、伝統的工芸品の認定を受けています。
鈴鹿墨作りが始まったのは平安時代初期。鈴鹿の山で採れた松脂(まつやに)を焚いて煤(すす)を取り出し、それを固めて作ったのが起源とされています。
江戸時代には、幕府によって家紋を持つことを定められ、家紋を書く上で上質の筆墨を必要だったため、上質な墨として知られていた鈴鹿墨の需要が高まります。
その後、需要が高まるとともに技術も高まっていた鈴鹿墨。墨として初めて、様々な色のある「色墨」を作ったのも鈴鹿墨です。
ではなぜ、これほどまでに鈴鹿で墨の生産が盛んになったのか。それには鈴鹿の気候風土や地理的条件が関係しています。
鈴鹿は墨の原料が入手しやすい点。周辺の水質が弱アルカリ性で、墨を固める天然のゼラチンの凝固力と粘り気に適している点が、鈴鹿で墨作りが盛んな理由です。そんな鈴鹿で作られた墨は発色がよく、上品さも感じられます。
滋賀県の伝統工芸品 信楽焼
花器
中世の日本を代表する焼き物を表す「日本六古窯」。瀬戸焼や常滑焼など有名なものばかりですが、「信楽焼(しがらきやき)」もそのうちの一つです。
忍者にゆかりのある滋賀県甲賀市の信楽町を中心に作られています。
信楽焼の起源は奈良時代。聖武天皇が現在の甲賀市に紫香楽宮(しがらきのみや)を築く際、瓦を焼いたのが始まりだといわれています。
室町時代以降、日本で「わび」の精神を重んじる侘び茶が流行したことを背景に、信楽焼は茶道具に用いられるようになり、千利休などの数々の茶人が使用していたそうです。
たぬきの置物
その後も、時代とともに火鉢や食器、タイルなど様々な製品が作られてきた信楽焼。中でも「狸の置物」は信楽焼を象徴する焼き物として日本全国に知れ渡っています。
狸が持つ八つの縁起
信楽焼で作られた狸の置物には「八相縁起」というものが表されており、縁起がいいものとして知られています。
・笠:思いがけない災難を避ける為に普段から準備しておくこと
・通い帳:金銭のやりとりを記録する帳簿。世渡りには信用が第一ということ
・目:前後左右に気を配り、正しく見つめること
・腹:冷静な部分を持ちつつ、大胆さも必要
・顔:常に愛想よくいること
・金袋:金銭を自由に使える金運に恵まれるように
・徳利(とっくり):お酒の容器。人徳を持って飲食に困らないようにという意味
・尾:物事の終わりはしっかりとすることで幸福につながるように
京都府の伝統工芸品 京友禅
京都府の伝統工芸品 京友禅
京都には数多くの伝統工芸品が存在し、国の認定を受けている伝統的工芸品は17個と、東京と並んで日本で一番多い数です。「京友禅」もそのうちの一つで、日本の着物文化に大きく貢献してきました。
友禅染は、染めの着物に模様をつけるための代表的な技法です。
京友禅の始まりは江戸時代。当時、扇絵師として京都で人気を集めていた宮崎友禅斉の画風を、着物の模様染めに生かしたのが最初だといわれています。
この友禅染が誕生する以前、染色には刺繍や絞り染などの方法が取られていましたが、どれもごわごわとする肌触りになってしまうのが欠点でした。しかし、友禅染は技術や染料の研究を重ね、思い通りのデザインを描くことに成功したのです。
まるで絵画のような着物のデザインは人気を誇り、江戸中期には友禅染の名が全国へと広まっていました。
現在、京友禅と名乗れる着物は「本絹製品」のみで、外国などで少しでも加工されたものは当てはまりません。その厳格さも、京友禅の美しさの所以の一つです。
大阪府の伝統工芸品 和泉櫛
つげ櫛
大阪府貝塚市と岸和田市で生産されている「和泉櫛(いずみぐし)」。飛鳥時代、現在の貝塚市にある二色の浜に漂着した外国人が櫛の製法を伝えたのが始まりとされています。
江戸時代には全国一の生産地となり、二色の浜付近にある八品神社には櫛の神様も祀られています。
和泉櫛が完成するまでには1年以上を要し、特に原木を自然乾燥させたり燻製をさせるのに1年近くかかります。
和泉櫛の特徴は、静電気を起しにくく、髪を傷めないという点。そのため、長年和泉櫛で髪をとかしていると、髪の艶が増すのです。
兵庫県の伝統工芸品 播州そろばん
計算に使うそろばん
古くから学校教育などで計算に使われているそろばん。播州そろばんの技術の高さは日本屈指を誇り、使いやすさや玉はじきの良さも特徴です。
室町時代末期に、中国から日本に伝わり、播州そろばんの起源は安土桃山時代です。当時は、農業の閑散期に手仕事としてそろばん作りが行われていました。
江戸時代になると、日本各地に寺子屋が設けられたことで、そろばんの需要が高まります。その後も、経済や教育の発展にともなって需要は伸び続けていましたが、電卓の普及によってそろばんの需要は減少。現在は年間50万丁の播州そろばんが生産されています。
計算以外にも使用できる播州そろばんも開発されていて、カラフルなものや時計などがあります。
奈良県の伝統工芸品 高山茶筌
茶筌
奈良県の生駒高山で生まれた「高山茶筌(たかやまちゃせん)」。茶筌とは、茶道でお茶を点(た)てる際に使われる竹で出来た茶道具のひとつで、10センチほどの竹筒の先を細かく裂いて、糸で編んだものです。
高山は茶筌の使用が多い京都や大阪に近い点や、良質な材料が取れたことも関係し、日本唯一の茶筌の生産地として発展していきました。
高山茶筌の起源は室町時代。当時、高山の地を支配していた鷹山民部丞入道宗砌(たかやまみんぶのじょうにゅうそうせつ)が、侘び茶の創設者といわれている村田珠光に依頼されて作ったのが始まりだといわれています(諸説あり)。
高山茶筌は120種類近くあり、それぞれ形や竹の本数などが異なります。中でも高山茶筌を代表するのが「八十本立」という種類。外側に太い竹が80本。内側にも80本の竹があり、計160本の竹で穂先を形成しています。
和歌山県の伝統工芸品 紀州漆器
和歌山県の伝統工芸品 紀州漆器(写真提供:公益社団法人和歌山県観光連盟)
「紀州漆器」とは、和歌山県の北西部・海南市を中心に作られている漆器です。日本各地で漆器の生産が行われていますが、中でも大きな産地を日本四大漆器と呼び、紀州漆器もそのうちの一つに数えられています。
紀州漆器の代表的な塗りは、朱塗りの表面から下地の黒色が浮き出ている「根来塗(ねごろぬり)」です。根来塗は和歌山県岩出市にある根来寺が起源で、黒漆の下地に朱塗りをしただけというシンプルな作りだったため、使用中に表面の朱塗りがすり減り、下地の黒漆が見えることがありました。
しかし、その黒漆が、趣があるとして話題を呼び、紀州漆器を代表する文様となりました。
紀州漆器の起源は室町時代。現在の滋賀県付近に住んでいた木地師が紀州に移住し、そこで木のお椀を製造したのが最初です。江戸時代には、下地に柿渋を使った渋地椀の産地として全国に知れ渡ります。
その後も幕府の保護などを受けながら発展し、日本有数の漆器となりました。シンプルで丈夫、日常生活で気軽に使える紀州漆器は、江戸時代から庶民の日用品として親しまれてきました。
お土産にもぴったりの伝統工芸品
伝統工芸品には日用品も多く、和泉櫛のつげ櫛や紀州漆器のお箸など実用的なものもあります。ぜひお土産に持ち帰って、自宅で使うのもおすすめですよ。