仙台張子の代名詞「松川だるま」
新しい仙台土産「首振り張子」に会いにいく
首振り張子ができるまで
仙台市の干支信仰「卦体神」とは
まとめ

張子(はりこ)とは、原型の上に紙を幾重にも重ねて貼ってゆき、十分に乾燥させてから型を抜いたあとに絵付けなどで仕上げられた紙製の郷土玩具です。日本の全国各地で古くから作られており、子供の成長を祝う置物や厄除け、縁起物等として広く庶民に親しまれてきました。

宮城県にも仙台の名を冠した「仙台張子」があります。なかでも藩政時代から作られている「松川だるま」が特に有名ですが、今回は“新しい仙台土産”として考案・創作された、かわいらしい十二支の「首振り張子」を作っている工房を訪ねました。

日本人の暮らしと今もなお深い関わりを持つ十二支についてもあわせて紹介していきます。

【関連記事】
日本の伝統工芸品のまとめ記事はこちら↓
日本の伝統工芸品一覧&8つの地方別で徹底解説!【完全保存版】

東京都 < 浅草・スカイツリー

伝統工芸品の輪島塗の器

日本の伝統工芸品一覧&8つの地方別で徹底解説!【完全保存版】 日本で古くから受け継がれてきた技術を用いた「伝統工芸品」。日用品や着物など様々な種類が作られ、日本全国に存在しています。今回はそんな日本の伝統工芸品を地方や都道府県ごとに一覧でまとめてご紹介。それぞれの伝統工芸品の歴史や魅力を徹底解説します。

伝統工芸

仙台張子の代名詞「松川だるま」

今回紹介する「張子」ですが、日本人にとって親しみ深い張子といえば「ダルマ」が挙げられますね。

一般的にダルマは赤色が多いのですが、仙台の「松川だるま」は、顔のまわりが鮮やかな群青色で縁取られ、胴体に宝船や福の神が描かれ絢爛豪華な装い。天保年間(1830~1844年)に庶民の心のよりどころになるように、と、伊達藩藩士の松川豊之進が創始したと伝えられています。

松川だるま

鮮やかな群青色が印象的な松川だるま

現存している「本郷だるま屋」の初代が松川氏のもとに弟子入りし、その技術や当時の木型を今に継承。お正月の初詣の際、神社の参道に松川だるまがずらりと並んでいる風景は仙台人にとって大変なじみ深いものとなっているんです。

伊達政宗と工芸品

そもそも仙台を中心に発展した宮城県の伝統工芸たちは、仙台藩主・伊達政宗公の力によって生まれたものが多くあります。

伊達政宗公の像

仙台藩祖の伊達政宗公

文武両道に秀でていた仙台藩祖伊達政宗公は、当時、伊達家で育まれてきた伝統的な文化を土台に新しい文化を仙台の地にもたらしました。それらは時代を重ねて武士から庶民へと伝えられ定着していくことに。

仙台藩の職人たちが担っていた工芸品の技術は仙台城下の職人に引き継がれ、現在もさまざまな伝統工芸品として生き続けています。なかでも伊達藩士の手内職として作られていた仙台張子は、暮らしの中の縁起物として庶民に大変人気があったと伝えられています。

新しい仙台土産「首振り張子」に会いにいく

伝統的な仙台張子の作り方を学びながらも、さまざまな技術を駆使して生み出したオリジナルの小さな十二支の首振り張子を作っている工房があります。手のひらの上で愛くるしく首を振る張子は、仙台市の新デザイン工芸展に入賞。今や宮城県内に留まらず県外などにもファンを持つ仙台の新しいお土産品として定着しています。

工房外観

たかはしはしめ工房

その首振り張子を制作している「たかはしはしめ工房」は、仙台市青葉区の住宅街にあるごく普通の一軒家。玄関にある木製の看板でようやくそれと分かります。

中に入ると、作業用のテーブルと畳敷きの小上がりでご夫婦が作業の最中でした。正面の棚が小さなギャラリーになっていて、戸を開けた時に「いらっしゃい」とでも言っているかのように、首がゆらゆら揺れています。作業台の上には来年の干支である子(ねずみ)の張子がところ狭しと並び、色を塗られるのを待っているよう。張子に囲まれた、温もりある空間がそこには広がっていました。

張子が並ぶギャラリー

首振り張子ギャラリーがお出迎え

「十二支首振り張子」は1960年、先代の髙橋はしめ氏による仙台の新しいお土産品として考案・制作されました。

最初に完成したのはオリジナルの「俵牛」(たわらうし)。翌年の干支が丑年(うしどし)だったこともあり、とても好評を博したそうです。その後少しずつ十二支の制作を始めましたが、形態の異なる動物たちの首がちゃんと振れるように創作していくのには大変苦労したそうで、十二支全てがそろうまでに12年以上かかったのだとか。

現在は、工房の名前はそのままに、はしめ氏の長男の敏倫さんと奥様の恭子さんがメインとなって張子制作に携わっています。

作業中の高橋さん

作業中の髙橋敏倫さん

奥様の恭子さん

奥様の恭子さん

十二支張子の特徴は何といっても、手のひらに乗るかわいらしいサイズと素朴な色と質感。そして、全ての動物たちの首がゆらゆらと揺れることです。

手漉き和紙の良さを生かすために一枚一枚丁寧に染めあげ、色止めをし、ちぎり絵のように細かくちぎって貼り重ね、最後に絵付けをするという、とても手間のかかる緻密な手作業で生まれるのです。

完成までにさまざまな工程があるので一概には言えませんが、1日に50個作り上げたとしても、年間生産量は十二支全部で約10,000個。特注の依頼もあり、なかなか休む暇が取れないのがご夫婦の目下の悩みなのだとか。

絵付け前の張子

丁寧に絵付けされたネズミたち

首振り張子ができるまで

手のひらサイズでゆらゆらと愛らしく首を振る、たかはしはしめ工房の首振り張子たち。手作業で生み出されていく繊細な張子たちは、どのような工程を経て誕生するのでしょうか。大まかな工程を教えてもらいました。

下貼り

十二支それぞれの型に紙を貼り付け、乾燥させます。
乾燥したら背中に切目を入れて型を取り出し、背中の切目に合わせて紙を貼り付けていくことで、下地が完成します。
※現在はこの作業のみ外注

バリ取り

「バリ」というのは、下地を加工したときにできた凸凹や出っぱりなどのこと。これ取り除くことをバリ取りといいます。バリのついた下地をグラインダーにかけて、継ぎ目をなめらかにします。

バリ取り前の下地

バリ取り前の下地

上貼り

なめらかになった下地に、細かくちぎった薄手の手漉き和紙を丁寧に糊で貼り付け、乾燥させます。「なにしろ小さいから、ごまかしがきかない。和紙も手漉きを使っているので、全く同じ色という訳にもいかないんですよ」と敏倫さん。

組み立て前の猪張子

細かな和紙の貼り付け作業を経た張子たち

組立て

指先よりも小さい重り

指先よりも小さいおもり

頭と胴体を取り付けます。頭部に糸を通し、首を上手に振るように土粘土のおもりを付けてバランスをとっていくのです。

重りの入った頭を取り付ける

おもりの入った亥の頭を取り付ける

ネズミの頭の取り付け

限定の白いネズミ張子たちも頭を取り付けていく

なかでも辰(たつ)・巳(み)・酉(とり)は首振りの構造が他と異なるので調整が難しいのだとか。

辰の首振り張子

タツの首振り張子。上手に首を振るために、繊細な手元の技が求められる

絵付け

そのほかのパーツを取り付け、それぞれの動物に絵付けをしてようやく完成です。

ネズミの絵付け

ネズミの絵付け

ひとつひとつ丁寧に描かれた張子たちの表情は、どれも愛おしくなるかわいらしさ。作り手としての想いをうかがうと、「手に取って下さった方が『ああ、かわいいな』と思ってくれればそれで良いんですよ」とご夫婦は笑顔で口をそろえます。

自身が生まれた年の干支の張子をお土産に購入したり、その年にあわせた張子を家に飾ったり、贈り物にしたり。十二支の首振り張子は、ずっと大切にしたくなる、仙台の新しい郷土玩具といえるでしょう。

日本の「十二支」文化と仙台市の干支信仰「卦体神」

日本人の私たちにとってはなじみ深い「十二支」という文化。そのなかでも宮城県仙台市には、十二支にまつわる神様を信仰する文化があります。仙台へと足を運んだ際には、自分の干支にちなんだ神社へと足を運んでみてはいかがでしょうか。

中国から伝わった十二支

十二支とは、子(ね・鼠)、丑(うし・牛)、寅(とら・虎)、卯(う・兎)、辰(たつ・竜)、巳(み・蛇)、午(うま・馬)、未(ひつじ・羊)、申(さる・猿)、酉(とり・鶏)、戌(いぬ・犬)、亥(い・猪)の総称です。

十二支の首振り張子

十二支の首振り張子

現在の日本では主に年を表すのに使われ、年賀状や占いなどに用いられていますが、かつては月や時刻、方角といったものも現していました。その概念は6世紀の半ばに中国から日本に伝わったとされており、元来「子」や「亥」などの字に「ねずみ」や「いのしし」といった意味はありません。しかし一般の民衆にも十二支を広めるため、文字に近い身近な動物の名前を当てはめるようになったといわれています。

意外と知らない十二支や十干について詳しく知りたい方はこちら↓
【十干と十二支】の意味とは?意外と知らない干支の正体!

福島県 < 会津若松・喜多方

十干十二支とは何?

【十干と十二支】の意味とは?意外と知らない干支の正体! 年賀状などでよく目にする「十二支」。全て答えられる人は多いと思います。では「十干」が何か知っていますか?実はあなたの干支の認識は間違っているかもしれません。今回は意外と知らない十干と十二支の意味や組み合わせについて紹介します。

歴史

仙台独特の「卦体神」(けたいがみ)信仰

仙台には、卦体神(けたいかみ)と呼ばれる風習が古くからあります。十二支の守り本尊(それぞれの生まれた年の干支によって守護してくれる神様)を信仰するというもので、「けでがみさん」と呼ばれ江戸中期以降から信仰されてきました。

仙台城築城の際に城下を守る目的で各方位を示した干支と社寺の位置を組み合わせたことが始まりとされ、仙台市内には十二支すべての守り本尊の寺社があります。

大日堂の守護申

こちらは大日堂(仙台市青葉区)の守護申

【仙台市内 十二支の守り本尊のある寺社】
■子(ねずみ):【千手観音】普入院観音堂 善入院(仙台市宮城野区原町1-1-67)
■丑(うし)・寅(とら):【虚空蔵菩薩】虚空蔵堂 大満寺(仙台市太白区向山4-4-1)
■卯(うさぎ):【文殊菩薩】鷺巣山文殊堂(仙台市青葉区八幡6-10-18)
■辰(たつ)・巳(へび):【普賢菩薩】愛宕神社(仙台市太白区向山4-17-1)
■午(うま):【勢至菩薩】二十三夜堂(仙台市青葉区北目町7-11)
■未(ひつじ)・申(さる):【大日如来】大日堂(仙台市青葉区一番町1-12-40)
■酉(とり):【不動明王】三瀧山不動院(仙台市青葉区中央2-5-7)
■戌(いぬ)・亥(いのしし):【阿弥陀如来】大崎八幡宮(仙台市青葉区八幡4-6)

十二支を一度にお参り出来るスポット「大満寺」

十二支八角堂

十二支八角堂(大満寺境内)

干支の異なる家族同士、恋人同士などでお参りをしたいという人には、仙台市青葉区向山にある「大満寺」に足を運ぶのがおすすめ。大満寺は丑(うし)・寅(とら)の守り本尊である虚空蔵菩薩(こくぞうぼさつ)を祀るお寺でありながら、その境内にある「十二支八角堂」には十二支すべてに対応した8体の守り本尊を奉安していることで知られています。そのため、何年であっても一度にお参りすることができるんです。

十二支広場の石像

十二支広場の石像(大満寺境内)

自分の干支やその年の愛らしい首振り張子を手にしてみて

今回取材にうかがったたかはしはしめ工房の首振り張子最初の「俵牛」が創られたのは60年前の子年(1960年)のこと。つまり、首振り張子たちは来年で還暦を迎え、新たな歩みをはじめるということです。

仙台市内に観光に訪れた際には、卦体神さまにお参りをしながら、愛らしい首振り張子たちに会いに行ってみてはいかがでしょう。